やっとできました。
今回もメンバーは変わりましたが、3人の共著です。
リハドクターと作業療法士、そしてシーティングエンジニアの僕、この3人で書きました。
実は、もう二人います。一人は、専門的になり難しそうな説明を一目でわかる楽しいイラストにしてくれた人と骨格や筋肉のイラストを描き装丁を担当していただいたデザイナーです。
あとがきは、僕と作業療法士の串田さんで書いていますが、僕の分だけ転載します。
あとがき
まず坐ることから
この仕事をやり始めて、来年で40年になります。最近やっと「うまく座ってもらった」ということを、その場で実感できるようになりました。それが、この本のサブタイトルにもなっている「笑顔を引き出すシーティング」です。
介護現場や病院で働いている方は、利用されている椅子や車椅子に実際に坐ってみてください。個人の所有品であれば、事前にお断りすることはもちろんですが、ご自身の”からだ”で試して感じてみてください。いかがでしょうか?
体格の違いや変形などの対応(タオルやクッションが入っていたり)があって、違和感があることもあるでしょうが、それでもまずは坐ってみてください。自分が気持ちよく感じたとしても利用者はそうではないこともあります。まして、自分が気持ちよくないものは、おそらく利用者もそうだろうと想像し、なぜそう感じるのかを考えてみてください。
感じてもらうことから「シーティングの世界」が始まります。なあ〜んてことを「あとがき」で書くこと自体は、とてもおかしい話ですが、最後にこのことを強調したくて書かせてもらいました。
二つのゼロ作戦
ずいぶん以前の話になりますが、1989年の「高齢者ゴールドプラン」のなかで提唱された「寝たきり老人ゼロ作戦」は、そのネーミングのインパクトもあって、関係者には広く知られ、現在に至っています。その結果、高齢者施設には車椅子がたくさん使われるようになりました。居室や病室のベッドから起こしてその車椅子に乗せれば、安全に食堂やリハビリ室まで運べます。そのような目的で開発されたのが、いわゆる「普通型車椅子」ですが、我が国では、そのまま食事の椅子としても、その後もお楽しみの時間にも使われ続けています。
普通型車椅子は長く坐ることを目的として作られたわけではないので、30分も坐れば、若い元気な人でも疲れてしまいます。高齢者は疲れやすいといわれていますが、私も最近それを実感しています。疲れやすい人には坐るための適切な用具が必要なのですが、それが与えられないので、すぐにベッドに戻り、横になりたがります。
しゃべることができる人はまだしも、それをうまく伝えることができない人は、車椅子から起き上がろうとします。あるいは滑り出ようとします。すると「危ない!」ということで、安全ベルト(という抑制帯)で車椅子に縛り付けられていました。
2000年4月から介護保険が始まりましたが、その年、厚労省では「身体拘束」が問題になりました。当初は徘徊老人に対してベッドでの拘束がいちばんのテーマでしたが、私は車椅子の身体拘束も問題提起しました。長く坐るための工夫がされてない車椅子を与えておいて、ベルトで固定することがいかに大変な問題かということが、やっと厚労省の担当者だけでなく多くの関係者にも理解していただき、翌年3月には「身体拘束ゼロへの手引き」としてまとめられました。今でもネットで検索できます。
ケアプラン
私たちが企画当初にイメージしたこの本の読者は、現場で実際に車椅子に坐る方と向き合う人たちでした。直接はご家族、そして介護や看護にかかわる方、さらに理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などリハビリにかかわる方と思っていました。
ですから、解剖学や運動学や生理学などの専門用語の扱いについては(特に編集者は)苦慮しました。セラピストの方にはやや煩雑かもしれませんが、説明を繰り返してイラストを多用し、読み終わったら理解していただけるように工夫してあります。
出来上がったのをあらためて読み直してみてわかったのですが、この本はケアプランを作成する方(ケアマネジャー=介護支援専門員)に読んでいただきたいと思いました。
介護は人の手、しかも心がこもった人の手を必要とすることは十分理解しているのですが、だからこそ用具でできることは用具に任せたほうがいいのです。
しかし、ケアマネさんは車椅子のことはともかく、「シーティング」という「坐りの質」まで踏み込んだ世界を垣間見る機会は、非常に少ないという話を聞いたことがあります。是非、ケアプラン(=居宅サービス計画)を作成する方に読んでいただき、坐る用具の働きを知っていただきたいと思いました。「車椅子が必要」ではなく、「坐って活動してもらう場面を増やすにはどうするか」という視点に立った計画案を作成していただきたいと願っています。
最後に
企画当初はすぐに完成できるように思えましたが、同じ現象を立場の違う執筆者が勝手に書くもので整理がつかず、串田さんを中心にしたシーティングの実践活動では新しい発見が続き、どんどん知見が積みあがっていきました。一時はどこがゴールなのかわからなくなりかけましたが、ゴールを明確に示してくれた忍耐強い編集者と、わかりにくい説明をウイットに富んだイラストにしてくれたイラストライターに、執筆者一同お礼申し上げます。
実は、この二人は同一人物なのです。(光野有次)
なお褥瘡などの医学的な内容については、リハ医師の鈴木先生が執筆し監修もしてくれています。またシーティングに関わる解剖学や運動学・生理学などの基本的な知識を容易に正しく得ることができるようになっています。
この本は全国の書店で注文いただければ、送料無料で購入できます。ただし入手できるのは来週になるようです。購入したくない方は図書館に置くように是非リクエストしてください。とてもいい本です。著者の一人が言うのだから、間違いない!