いつも水をどのくらい持って歩くかは、やや大きな問題である。たくさん持っていくと余分な重さを背負うことになる。
地図で水場を確かめて500mlのペットボトルを数本リュックに入れる。今回も途中に水場があることを確かめ、3本にした。
ところが、その途中の水場を知らないうちに通り過ごしてしまい、気づいたときは、ずいぶん登っており、引き返す気はしなかった。
今回は770mという低い地点からの出発だったこともあり、夜明け前にもかかわらず蒸し暑かった。予想以上に汗をかき、熱射病対策のためにと水分補給を重ねた。急坂が続き、2本を飲み干してしまった時点で、残りの1本で宿泊予定地の七条小屋(2365m)まで3時間近くを登り続けないといけないことがわかった時は、少し焦った。
水分補給というよりは、ほんの僅かを口に含み、口を潤しながら90分ほど歩いた。汗は滝のように噴き出る。コースタイムで小屋まで80分の「五合目小屋跡」に到着したときは、半分(250ml)も残っていなかった。
そこで一休みしているときに、夫婦と思われる二人に挨拶をして「山小屋までに水場はありますかね?」と尋ねた。地図には小屋までは水場の記載はないので、ダメモト覚悟とわずかな期待を込めた問いかけだった。
「ないですね〜」という答えが返り、二人はそのまま過ぎていった。すぐそのあと「水がないのですね?」と声がかかり、「よかったら1本どうぞ!」と、まさしく「地獄(には、まだ至っていなかったが)に仏」の一声であった。
「自分たちは上の小屋で十分に水を補給していたから、余分があるので、どうぞ!」というわけだ。
まさに天にも昇る僥倖で、感謝の言葉を発したが、ここでお礼のお金を差し出すべきか、そしていくらだと妥当かなどと考えた。この少し躊躇の間に、二人は去って行ってしまった。
ここで、あらためて感謝の意を表したい。「おかげで助かりました。心からお礼申し上げます。ありがとうございました。」
はしごや鎖が続く厳しい登りだ。
それから1時間半ほどかけて、無事に山小屋に到着。
そこでは、もちろん、とても冷たい沢の水が待っていた。